心のメモ

誰かに話すことでもないような考え事はこのブログに収めている。

友人のはなし

 駅前の道路を歩いていた時に車椅子を押して歩いていたおばあさんがいた。歳は80といったらお世辞になるくらい。もちろん進むスピードも遅いため、かえって人の通り道を塞いでしまっていた。友人はその後ろをぴったり歩いて、道が広くなるのを待っていた。駆け抜けようとした時、車椅子が動くのを止めた。そしてにわか雨が降ってきたかのようにおばあさんは咳き込み、その場で倒れこんだ。友人はそばに駆け寄ってとりあえず声をかけてみたが、反応よりも自分の体を優先してしまうほどの容体であった。携帯を使って助けを呼ぼうとしたがどこに電話をかければいいのかわからなかった。

 15分後に救急車は到着した。容体が急変した時の目撃者であった友人は情報提供として同乗した。病院に着いてからはただおばあさんの検診を待っていた。検査の結果は急性の自然気胸であった。命には別状はなく、入院する必要もなかったため病院で安静した後すぐにタクシーが呼ばれた。

 その友人はおばあさんと少し話をした。近くでよく見ると、肌がツヤツヤで、検査後はナースとも話していたため、病気にかからなそうな元気なおばあさんであった。

 駅前にはアクセサリーを買いに来ていたそうだ。孫にあげるために、バスを使ってきたという。その帰り道に容体が急変してしまった。なんでも、彼女がいつまで経ってもできない20代の孫にピンキーリングをプレゼントしようという考えだったらしい。その孫はいつまでも大好きな人に告白できないと悩んでいいるらしい。それを聞いておばあさんが少しでも自信をつけさせようとピンキーリングを買いにきた。本当に活発で人思いなおばあさんだなと思った。無事にタクシーまで送り届けた後は家までの帰り道がわからないため、まだ日も暮れていないし歩いて帰ることにした。

 家に着いた時には、もう夕ご飯の支度をして明日の仕事に備えなければならなかった。キッチンでフライパンに油を落としている時に、幼馴染から電話がかかってきた。

 今日はたまたまホワイトデーだった。そんなものに無縁だと思っていた友人は何も気にしていない。幼馴染は今から家に行っていいかと聞いてきた。部屋を片付けていないから10分後に来てもらうことにし、急いで片付けて消臭剤を撒き付けた。その幼馴染とは小学から長い付き合いであったがお互い大学に入ってからはあまり会う機会はなかったため、久しぶりの再会となる。しかし、なぜこの時間なのだろう。

 幼馴染は汗をかいていた。そしてその汗は走ってきたから出たものではなく緊張によるものだと後から知った。「おばあちゃんが今日倒れて、少しでも喜んでもらいたいと思ったんだ。」付き合ってくれと言われた。右手の小指にはリングがはめられていた。